act.P-1;基礎知識1
道は都市の血管であり、道を流れる自動車は都市の血液である。
ダイムラー・ベンツによって発明され、フォードによって大量生産された自動車は、
人類の偉大な発明のひとつであったと言っても、決して過言ではないはずだ。今日で
は人々の生活にはなくてはならない道具として、車のない社会など考えることさえで
きない。
エンジンをはじめとする最新工業技術の結晶であり続けた自動車は、アメリカの象
徴であり、アメリカの誇りであり、アメリカにおいては自動車の車種がそのオーナー
の格の象徴でさえあった。自動車産業こそがアメリカの経済を支えた産業の輝かしい
花形だった。
しかし、それも二十世紀の中頃までのこと。
『自動車さえ作っていれば揺るぐことはない』
『作れば作っただけ売れる』
『企業努力など今さら必要ない』
アメリカの優位を信じてやまないビッグ3の夢が、とうに消え去っていることに彼
らが気付き始めたときには、すべてが手遅れだった。二十世紀の終わり頃には、『ビ
ッグ3』と呼ばれるアメリカ随一の大手自動車メーカーである、フォード、GM(ゼ
ネラル・モータース)、クライスラーのシェアは、トヨタ、ニッサン、ホンダ……と
いった日本の自動車メーカーにことごとく奪われ、とって替わられていたのである。
かくして日本の自動車メーカーは、ビッグ3の作り出す自動車を、量的にも性能的
にもアフターケアにおいても凌駕し、自動車業界の世界地図を塗りかえてしまった。
アメリカは国をあげて日本の自動車メーカーに対抗するための手段を講じた。自国
の大統領に圧力をかけ、日本に対して車のセールスマンを演じさせるということまで
やってのけ日本国内での販路を開こうとした。
だが、商品の性能と価格に対して恐ろしくなるほど貪欲で要求の厳しい日本の消費
者に、燃費が悪く長距離通勤用のアメリカ製自動車は売れないのだということに彼ら
が気付くのに、またしばらくの年月を必要とした。
なんとか日本の自動車メーカーの進撃を食い止めようともがくアメリカに、新たな
法律が現われた。一九九〇年に制定され、一九九八年から実施されたカリフォルニア
州法「カリフォルニア州低公害車・低公害燃料プログラム」である。
この法律は、カリフォルニア州で販売される自動車に含まれる、低公害車の割合を
定めたもので、各メーカーはマイル走行あたりの有機排ガスの平均値を法定値より下
回らなければならないという内容のものである。
問題は、この法律が、各メーカーに対して1年間に売り出す車の台数の中に、必ず
無公害車を何台か売らなければならない、という販売台数の下限規制枠を定めたこと
にあった。一九九八年の法律施行時、各メーカーは全販売台数の二%は無公害車でな
ければならない、と法律によって規制されてしまったのである。この割合は年ととも
に増大し、二〇〇三年には全販売台数の一割、十%は無公害車でなければならなくな
った。
このカリフォルニアの法律は、カリフォルニアの大気汚染などの環境問題を重くみ
て、メーカーに無公害車を作ることを強制するために制定されたといっても過言では
ない。そして、カリフォルニアでの制定を受けて、瞬く間に同様の法案が全米で採用
された。
日本メーカーにとって、カリフォルニア州のこの法律制定は対岸の火事などとは言
っていられなかった。アメリカという自動車市場での販売台数を確保するため、これ
まで無公害車開発に消極的だった各自動車メーカーは、躍起になって基礎研究に励む
羽目に追い込まれたのである。
研究開発に奔走するメーカーに追い打ちをかけるように、二〇〇一年春の都議会で
東京都条例にもカリフォルニアのそれに倣った低公害車・無公害車の規制枠が設けら
れた。
地下鉄などの高速大量輸送システムを持たないロサンジェルスに比べたら、移動を
車だけに頼らずに済む東京の交通事情は、ずっとマシであるはずだった。だが、コン
ビニを回る配送トラックやバス、そして企業の営業車やタクシーなど、圧倒的に商用
車の多い東京における自動車の稼働率は、ロサンジェルスにも負けないほどのとんで
もない数値にかけのぼっていた。
そこで、東京都は当時洋上に出現しつつあった人工群島に対して、低公害車・無公
害車の規制枠を定めたのである。
この計画は、緊急車両、許可を受けた車両、一部の公用車などを除くすべての車両
を規制の対象にして、低公害車・無公害車以外のガソリン駆動車の人工群島への乗入
れを禁止していた。そして、順次低公害車の割合を下げ、最終的には完全に無公害車
の通行のみを認める無公害車導入計画となったのである。
二〇〇〇年代初頭には、群島内のみを動くトラックや商用車のほとんどが、メタノ
ール車やディーゼル=電気のハイブリッド車などに置き換えられた。日野自動車によ
って基礎開発されたディーゼル=電気のハイブリッド車は、ほどなくメタノール=電
気のハイブリッドに替わったが、数年の間をおくことなく完全な電気自動車に替わっ
ていった。
後に「実験都市」「モデルケース・シティ」とさえ呼ばれることとなった人工群島
は、このジャンルにおいても新製品の実験場として機能した。電気自動車導入当初は、
一充電走行距離の短さなどが問題となった。が、電池の改良など、基礎・応用技術の
目ざましい進歩によって、問題の多くは解決された。
二〇一〇年頃までには、大阪、博多、名古屋、仙台などの主要大都市でも、群島に
採用された東京都条例と同様の条例が相次いで制定された。二〇一五年、群島をモデ
ルケースにかの条例の規制区域は東京都全域に広げられることとなったのである。
二〇一九年の段階で、低公害車と、電気自動車など無公害車の群島における割合は、
低公害車:無公害車=1:9というところまできていた。そして、群島で運用されて
いる無公害車の八割以上は各種の電気自動車であった。
二〇二〇年には少なくとも群島は無公害車以外の一切の通行が禁止されるのである。
わずかに残された低公害車は、外から人工群島の中に乗り入れて来る都バスのみ。
そして、二〇一九年。
東京都交通局管理の都営バス……通称・都バスの機種転換を翌年に控え、導入され
るべき無公害車の選定を巡る一波乱が人工群島に巻き起こりつつあった。
……御静聴、ありがとうございました(_ _;)ペコ。
act.P-2;EVvsHV
先任の東京都知事・鈴木俊一は、一九九一年モントリールで開かれた世界大都市サ
ミット閉幕後に環境問題に触れて、都バスを含めた東京都が所有する車両全般を低公
害車から無公害車へ転換していくことを宣言している。これまでは群島の整備などに
出費がかさんだため都バスの転換作業が遅れてきたが、鈴木俊一の後継者である現職
都知事・渋沢功一の代になってから、これらの未遂行公約の多くが実現されてきた。
これまで使用してきたディーゼル=電気のハイブリッド車は、完全な無公害車とは
言えなかった。
そこで、遅ればせながら完全にクリーンな車両を導入し、順次都営バス全線の機種
転換を行なうことが決められた。二〇一〇年までにディーゼル駆動車は全廃され、デ
ィーゼル=電気のハイブリッド車は二〇一五年頃にはメタノール=電気に変わった。
そして、各種電池改良及び石油燃料電池の飛躍的な進歩にともなって、二〇二〇年を
目標に都バスは完全に無公害車に切り替えられることになったのである。
しかし、都バス機種選定会議は難航していた。
都バス機種選定会議を担当する「東京環境委員会」は、東京都知事の私的諮問委員
会のひとつである。この委員会は、これまで幾度かに渡って行なわれてきた都バスの
機種選定のための予備会議を繰り返し、各種低公害車の導入、無公害車の開発状況に
関する答申を行なってきた。
いち早く、ディーゼル=電気のハイブリッド・バスの導入を都知事に進言したのも、
その四年後には素早くディーゼル=電気自動車からメタノール=電気のハイブリッド
車に全面転換をさせたのも、すべてこの会議の答申に基づく決定である。広範微細に
渡る見識と現場の声に基づいた彼らの決定は、それほどに大きな影響力を持っている
のである。
二〇二〇年度の機種転換では、これまで使用されてきたメタノール・エンジン、フ
レキシブル・エンジン、リーンバーン・エンジンなどの、低公害エンジン車は対象か
ら外され、走行中に排気ガスを出さない無公害車のみが対象とされることになった。
最終選考に残ったのは、すでに人工群島の中を走っている自動車の八割以上に及ぶ
EV(Electric Vehicle……電気自動車)、そしてHV(Hydric Vehicle……水素自
動車)の二車種である。ここで意見が二派に分かれてしまった。
「時代はEVです。一九七〇年頃からの技術の蓄積を考えれば、かれこれ五十年近い
試行錯誤を経て積み重ねられたキャリアがある」
「何をいう。実際にあわてて開発を進めたのは一九八〇年代の終わり頃からだろうが」
「それでも三十年のキャリアがある。ポッと出の水素エンジンなど、信頼に値しない」
「ポッと出ではない!! 極秘理に研究してきたのを公開しなかっただけだ!!」
「本当かどうか怪しいもんですよ。EVの台頭でメタノール車の売行きが怪しくなっ
てきたからって、EVの定着を阻止しようという魂胆なんでしょ? 安全性も信頼性
もなく、そして馬鹿高いHVの導入など、時期尚早も甚だしいしねぇ。私は断固反対
ですね。やはり都バスはクリーンで安全なEVにしていくべきでしょう」
「あんたねぇ……EVは電池という処理の難しい産業廃棄物を出してるじゃないか。
それに対して、HVは一切の廃棄物を出さない。せいぜい水を撒いて走るくらいのも
んだ。その水だって回収・再利用可能だし……。
都バスのような走行距離が一定していて整備を一括して行える運用システムは、H
V発展のために欠かせないステップのひとつなんだよ。そろそろこの辺で次世代自動
車であるHVに道を開けるべきなんじゃないかね?」
「そうやってHVを作ってる自動車メーカーばかりが得をするような理論に、ハイそ
うですかと納得するわけにはいきませんね」
「初期のディーゼル=電気のハイブリッド・バスだってそうだったでしょう。なぜH
Vがやっちゃいけないんです」
両派の意見は頑として一致しそうになかった。
この都バスの機種選定は、その後の自動車業界全体へ影響を与えうるものである。
EVが選ばれれば、EVの天下はまだしばらく続き、HVは一般化の時期を逸するこ
とになる。最近性能を上げてきている石油燃料電池搭載のEVを作っている新進メー
カーとしては、なんとも譲りがたい一線である。
HVが選ばれればEVメーカーの侵略を押え、一気に自動車全体のHV化に拍車を
かけることができる。自動車メーカーの意地というよりは、自動車産業界全体の将来
に関わるのである。
東京環境委員会の構成メンバーには、現場の知識を持っている専門家や各大手民間
企業の顧問たちも含まれている。そして、EV・HV各派の手先とも言える人間も多
く臨席しているため、どちらも一歩も譲る気はない。
論じ疲れた両派は、珍しくだんまりを決め込んでいる上座の人物に注視した。上座
のこの人物の一言は、これまでの選定会議の方向性を決めてきた。そしてこの膠着状
態を打破できるのも彼しかいないことを、会議室にいるすべての人間が承知していた。
おろおろした表情で汗を拭っていた議長役の中年紳士が、腕を組んだまま黙り込ん
でいた、問題の人物にお伺いをたてた。
「三宅教授。教授は次世代の都バスに、どちらを推奨されます? EVか。はたまた
HVか?」
「ん? ワシ?」
会議室は水を打ったように、しんと静まり返った。そして、宝くじの当選発表を待
つタクシーの運転手のような、はたまた大学入試の合格発表を待つ高校生のような、
ラブレターの返事を待つ中学生のような……そんな、哀願するような眼で三宅教授を
見つめる。
三宅教授はチックで固めた古めかしく尊大なカイゼル髭をつんつんと引っ張りなが
ら、唇の端をニンマリとつり上げてこたえた。
「そりゃアレだな。次世代自動車って言ったら、そりゃもうHVに決ってるだろうが
よ。所詮EVは、HVの花道を飾るための場つなぎに過ぎないわけだしな」
どよめきと嘆息が議場に溢れる。
虚を衝かれたEV派が口ごもりながら反論した。
「そ……そんな……だって、教授のところも……EVの開発をやってらしたんじゃな
かったんですか!?」
「やってたよ。だが本命はHVぢゃ。実は低コストの水素吸蔵合金タンクをふとした
ことから思いついてなぁ。もう、EVなんかもう屁よ、屁。
がっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは」
三宅教授は腕を腰にあて、ぐんと胸を張ってカンラカンラと高笑いを始めた。
反論したEV派の男は、青ざめた顔でへなへなと椅子に座り込んだ。EV派の論客
は誰も彼も皆同じ表情をしている。
洋上大学基礎工学部顧問教授であり、バイオスフィアJ−U計画の主幹の一人でも
ある三宅教授は、これまで様々なジャンルに革新的発明をもたらしてきた時代の寵児
である。そしてEV派が切札として出してきたEV用石油燃料電池の基礎理論をたた
きだした本人でもある。三宅総研はその石油燃料電池を用いた「MEV」を発表し、
EV市場を大きく拡大させる可能性を引きだした当の仕掛け人なのである。
三宅教授さえ仲間に引き入れられれば、もう怖いものはない。誰もがそう思ってい
た。もちろんEV派は、自分達の作っているEVの基礎理論を考えだした人物だけに、
間違いなく三宅教授はEV派だと信じきっていた。その三宅教授がこうもあっさりと
EV撤退を決めるとは……!
「がっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは。
とにかくこれからはHVの時代になる。いや、三宅総研がそうするのぢゃ!」
「でも……しかし……」
「しかしも三菱もない! ……と一蹴されては、君たちも気分が悪かろう」
三宅教授は妖しい眼付きでEV派を一瞥した。
「議長。三宅総研としては都バスの次期選定機種として、はたまた次世代自動車の候
補としてHVを推奨するが、こうして机上の空論を闘わせていても埓があかないと思
う。臨席の諸君、そうは思わんか?」
「そ、そりゃまぁ……」
「我々は、様々な立場の代表である。が、同時に自らの利益のためだけに、大いなる
進歩を妨げるような真似をしてしまうことは許されない立場にもある。いまここでE
VかHVかを選ぶことが、後の都市環境に大きな影響を与えることをかんがみれば、
公平かつよりよい可能性を持った因子を選び育てていかなければならん」
珍しく正論である。
「そこで、だ。この際、EVとHV両派の誇るマシンのポテンシャルを実際に比べて
みて、その評価結果に基づいて結論を下す……というのはどうかね?」
「都バスの概念設計図でしたら、EV・HVともに、すでに何台か提出されています
が……」
「ちっちっち。甘いな。紙きれだったらどうとでも書けるだろうがよ。時速五千キロ
出るとか、一回の充電で地球を三周できるとか。ワシは、『実際』に比べてみようっ
て言ってるんだよ」
「実際に……?」
議長が汗を拭いて復唱する。
「かー、頭固いんぢゃねーの? おまいら。あー、そこの書記! これからワシが話
すことは後で議事録から削るよーに。
……いいかな? あー、つまりだ。車は道を走ってこそ真価が問われる乗り物なワ
ケだ。そして、我々はこれからの都市を走るのにピッタリな車を選ぼうとしている。
そこで、非公式にではあるが実際にEVとHVで勝負させてみて、より優秀な方式
を選ぼうってワケだな」
「勝負? ……スピード競争でもやろうとおっしゃるんじゃ……」
「ふっふっふっふっふ……もちろんそれもある。だが、安心したまえ。早さ、安全性、
経済効率、その総てを比較・評価するのがこの勝負の目的ぢゃ。単に早さ比べだけで
は、EVなどHVの足元にも及ばないだろうが。だからEVを推奨する君たちは、早
さそれ以外の項目でHVと競いあえばよい。どうかね?」
「む……むぅ……しかし……まがりなりにも公的立場にいる環境委員会が、都バスの
機種選定のためにレースを行なうなど……やっぱりちょっとまずいんじゃないですか
?」
「ふっふっふ。抜かりはナイ! ネタに困ってるTV屋なら何人でも知っておる」
三宅教授はニンマリと笑みを浮かべた。
すでに都バスの機種選定という当初の目的は、三宅教授の脳裏からは忘れらされて
いた。
act.P-3;大番頭の憂鬱
木島正の胃袋は、はっきり言って限界寸前だった。
三宅総合研究所……通称・三宅総研の台所を預かるこの男は「三宅総研の大番頭」
と呼ばれる。本来は三宅総研の主任研究員であるのだが、三宅教授の研究開発した発
明品や理論などの特許の申請、使用権などをはじめとする権利の管理、雑誌などへの
スポークスマンから、三宅総研があげている商品開発・権利金などによる収益などの
管財に至るまでを幅広く担当している有能な男であり、三宅教授の八面六臂の大活躍
を影で支える重要人物でもある。
実際、もしも木島がいなければ、一見して何をしているのかさっぱりわからない三
宅総研を外部の人間が把握し、三宅教授の数々の業績を理解することは不可能であっ
たかもしれない。顧問教授であり三宅総研所長である三宅教授を筆頭に、学生・講師
・研究員と軒並マッド・サイエンティストばかりである三宅総研の中にあって、三宅
教授の側近としてマッド・サイエンティストの言葉を一般人に理解させるための橋渡
し役を演じる木島は、実に貴重な存在である。……のだが、その活躍も重要性も、三
宅教授の「偉大」さと、どでかい態度の影に隠れて、なかなか気付かれないのが実状
である。
そんなこんなで、木島という男はとにかく見ている方が気の毒になるくらいの苦労
性なのである。
ま、なんせ「あの」三宅教授のいわゆる尻拭いをして回らされているわけであるか
らして、齢三十半ばであるにも関わらず、白髪は増えるわ皺は増えるわ、ストレスで
胃を壊し、もちろん結婚などする機会も余裕もない。
数年前に一度、天から降って沸いた見合いの話もあったのだが、郷里・北海道に帰
るための休みを取ろうとした前日に発覚した、三宅総研名物「三宅教授の失言」の収
拾に翻弄されて、もう二度とないかもしれないチャンスを逃してしまった。同僚によ
れば、前日まで彼がニンマリ顔で見ていた見合い写真の女性は、もう二度と出会えな
いかもしれないほどの美人で、器量よしというふれこみ……だったらしい。
それだけに落胆も激しく、元々明るい性格の男ではなかったのだが、この一件以来
ますます暗く、愚痴っぽく、そしてやたら諦めの早い男になってしまった。
その木島が、寸分の妥協も許さず……というほどの断固とした態度で三宅教授の意
見に真っ向から対立する姿を見ることは……実は、案外珍しくない。対戦成績は、こ
れまでのところ三宅教授の九十九勝一分けで、大概は木島がうまいこと丸め込まれて
しまうのが常である。
だいたいが三宅教授に具申しても、ものの十分も保たずにやりこめられてしまうの
がこれまでのパターンだった。もっとも木島の方も手慣れたもので、どうせ言い負か
されるというのが分かっているから、何がなんでも決裁を仰がなければならない事項
以外は、三宅教授に具申などしはしなかった。
ロイヤリティの権利書の管理書類云々などといった細かい事項に三宅教授を関わら
せていたら、話が必要以上に複雑になる。三宅教授が、判子ひとつポンと押せば済む
作業に対して、書類スキャン装置と自動捺印装置をミックスした決裁装置を作りかね
ない人物であることは、重々承知の上である。
その上で決裁を仰がなければならないことは、大概は三宅総研の進退に関わる大問
題であった。過去にそれらの大問題を論じる上で木島と三宅教授の意見が対立し、さ
らに三宅教授に木島が丸め込まれることは多々あった。
実際、致命的な不都合は起こっておらず(致命的でない細かい不都合はよく起こっ
た。が、大概は木島が防波堤となって処理させられた)、すべての結果が三宅教授の
予言した通りの順境となっているため、木島はそれらについて何一つ言い返すことが
できなかったのである。
それでも懲りずに、木島は三宅総研の進退をかんがみて、自分の信じる最良の道を
三宅教授に具申し続けてきた(そして毎回まるめこまれてきた)。
そして、今日もまた木島は三宅教授にまんまとまるめこまれつつあった。
「きょぉじゅぅぅぅぅ。それじゃ、これまでに重ねてきたEV関係の蓄積はどうなる
んです。全部投げちゃうおつもりなんですか(;_;)」
「それはそれ、これはこれだ。木島! 細かいことにばかり目を奪われておると、ハ
ゲになるぞ、ハゲに!」
木島は恨めしそうな目で三宅教授をにらむと、はぁと深いため息をついた。
「もう諦めてますよ、髪の毛なんて。とにかくですね、わたしゃ反対ですからね。都
バスにEVじゃなくHVを推奨するなんて……。
今、市場に出回っている無公害車の八割以上はEVなんですよ。すでにEVは成熟
した安定商品なんです。用途に応じて色々なタイプも売り出されてるし……。ここで
例の石油燃料電池と新モーターを採用すれば、確実に儲るんです。今までの蓄積のい
っさいが無駄にならずに済むんです。
それをですよ。HVだなんて……だいたいがHVはまだ全然儲ってないじゃないで
すか。作るにしたってコストが高すぎるし……これじゃ商売になりませんよ」
木島はパチパチと算盤を弾きながら、極めて現実的な意見を出した。金勘定のすべ
てを預かる大番頭・木島であるからこそ、三宅総研の台所事情を熟知できているので
ある。
実際、基礎研究には膨大な時間と費用がかかるのだ。それを回収しようと思ったら、
得た技術を商品に替え、次々に売り飛ばさなければならないのである。洋上大学の誇
る、研究室単位の独立採算制度は、学部を単なる学究の組織ではなく、技術を利潤追
求の道具として使いこなせる学部企業に鍛え上げた。
基礎工学部・三宅総研とて、知恵と才覚で作りだした技術を次々に商品に替え、こ
の過酷な競争に勝ち抜いてきたからこそ、農業工学科と並ぶ洋上大学基礎工学部随一
の金持ち研究所として、次なる様々な研究に心血を注ぐことを許されているのである。
「覚えてますか。『工学は工業科学であって、単なる学問ではない。技を金に変える
錬金術……それが工学だ』今から8年前の夏に教授はこうおっしゃいました。わたし
ゃ、三宅総研の財布を預かる者として、この言葉だけを胸に刻んで今日まで過ごして
きたんです」
「はて、そんなコト言ったか?」
「言いましたよ! それなのに……それなのにそれなのにそれなのに、教授は今なら
確実に儲るEVを捨てて、ぜんぜん金になる気配もないHVで勝負をかけようって言
うんですか? わたしゃヤです。むざむざ損するような真似はしたくありません(;_;)」
しくしくと泣きながら、涙ながらに訴える木島が健気にさえ見えた。
三宅教授は両腕を腰にあて、ぐんと胸を張って腹の底から沸きでるような高らかな
笑い声をあげた。三宅総研名物、元祖うはは笑いである。
「うはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!
無駄にはならんっ! これからは水素の時代なのだ! 電気ィ? そんなちまちま
走るモンにいつまでも目を奪われていてどーする! 時代はHV! やはり車はエン
ジンでなければいかん!」
「で、でも教授……」
「お前にはわからんか? 水素吸蔵合金から吐き出される水素は、そのかわいらしい
分子構造をキャブレターから燃焼室へ踊らせる。吸気、圧縮、燃焼、排気を繰り返す
燃焼室にピストンの上下する音。クランクが、カムが、シャフトが、水素エンジンの
唸りを回転運動に変え、大いなる爆発は車体に速度を与える。EVのモーターにこん
な真似ができるか? あん? できまい?」
「最近のEVはガソリン車なみの性能は持ってますが……」
「うむ。できまいなぁ。できんに決っとる。そうだろう、そうだろう」
聞いちゃいねぇ(^^;)
「それに、モーター駆動のEVには、車の渋みというものがない。あんな、ラジコン
みたいな音もそっけもないものは車ではない。断じて車ではない。自動車というのは、
内燃エンジンの鼓動があってこそ、初めて自動車と呼べるのだ。あんなコイルの塊ご
ときで走るシロモノが車だと。ふん、片腹痛いわ! わは。わは。わははははははは
はははははははははははははははははははははははは!」
「んな趣味に走ったことを……(T_T)」
一度こうなってしまうと、もう三宅教授の耳には何も届かない。教授に心酔する学
生たちも一緒になって、腰に腕をあてて胸を張り高らかな大笑いのコーラスを重ねて
いる。三宅総研に入ってきた学生たちの最初の課題はこの「うはは笑い」を修得する
コトで、三宅総研には「うはは笑い」の単位があるという嘘とも誠とも知れない噂も
あるが、事実は定かではない。
おそらくもう誰が止めても三宅教授は聞きゃしないであろう。ここで現在市場の主
流を占めているEVを捨てるということは、確実に三宅総研の減収につながるに違い
ない。HVはコストが高く付きすぎる。そんなことはとっくに分かりきったことであ
り、HVを市場に導入するにはまだ早すぎるのだ。なのに、なのに……(;_;)
三宅総研・営業一課の一年生が、暗澹たる気分に沈みこみかけている木島の名を呼
んだ。
「大番頭! 木島大番頭! マルイシ電気の晴海谷さんが応接の方にみえてます!」
act.P-4;大番頭、泣き崩れる
「木島さん、どーしたんです。目が赤いスよ?」
応接室で木島正を待っていた晴海谷正は、見慣れた疲れた顔に泣きぬれて赤く充血
した目をはりつけた木島のやつれ具合いに驚いた。
木島は白衣の裾で涙を拭いながら、ソファに腰を降ろした。
「いや、なんでもない。なんでもないんです。いつものコトですよ」
「……ああ、また三宅教授に泣かされたんですね(^^;) まっ、いいか……」
三宅教授の天才的資質と天才にありがちな性格は、すでに周知の事実である。そし
て、その三宅教授に振り回される気の毒な木島の役どころも知れ渡っている。しかし、
どんなに気の毒と思っても、決して木島の代わりに三宅教授と折衝を図ろうなどと思
う人間は現われない。
事実、木島ほど忍耐強く(いや、諦めきってるだけかもしれないが)三宅教授の相
手が続く人間は他にいないし、たとえそれほど忍耐強い人間がいたとしても、木島の
様相を一度でも見てしまえば、決して三宅教授の相手をしようなどと考えたりはでき
ないだろう。
木島は、周囲のあらゆる人に替わる、三宅教授への生け贄なのである(^^;)。
生け贄の大番頭は、鼻をかみ、咳払いをしていつものペースを取り戻そうと試みた。
「で、マルイシの晴海谷さん。今日はどんなご用件でしょう?」
「はぁ、例の超々微細CCDカメラの納入に関してなんですけど……」
高校卒業後に上京した入社七年目の中堅社員である晴海谷は、一八五センチの長身
にボディビルダーのような筋肉の鎧をまとった、少し色白の北海道人である。
群島内に支店を持つ電化製品量販店マルイシ電気に勤める晴海谷は、この春からそ
れまで勤めていた家電製品フロアー担当から、外回りの営業に配置転換になったばか
りである。持ち前の明るさと人見知りしない性格は営業には最適だった。
ことさら、同じ北海道人の木島とは、田舎の話で盛り上がることしばしばである。
同郷のよしみで木島が何かと融通を利かせてくれるおかげで、営業成績もなかなか悪
くない。
家電フロアの商品納入やサポートなどが本来の仕事であるのだが、最近では本来の
仕事以外の話も話題にあがることがある。
何しろ三宅教授と闘いながらの毎日であるから、木島にも相当なストレスがたまる
ことは間違いない。愚痴のひとつもこぼさなければやっていられないのである。最近
の晴海谷は、仕事半分、木島の愚痴の聞き相手半分が日課となっていた。それでも木
島の愚痴を聞くくらいのことで営業成績があがるのであればそれも給料のうちと我慢
もできる。
「……というわけで、例の超々微細キャメラを群島支店に二十台ほど入れたいんです。
ここの売上げを見て、全店に百台ずつくらい入れる形になると思いますが……」
「わかりました。手配しときましょ」
「木島さん、いつもすみませんです」
「いやいや……ふぅ」
形ばかりの商談を終えた木島は、深いため息をついた。
「三宅教授の浪費癖&突発性の趣味的行動……あれさえなければ偉大な工学の父とし
て、心の底から教授に敬服できるんですがねぇ」
三宅教授の偉大な才能は、その無意味に膨大な知識量と好奇心、そして多方面に渡
る知識の連動性によって励起されている。……などと言ってもなんだかよくわからな
いと思うので、わかりやすく説明してみよう。
普通の科学者は、あるひとつのジャンルを極めて初めて「先生」と呼ばれ後塵に知
識や理論を教授できる立場にたどり着く。いわゆるその道の「権威」「第一人者」と
いう奴である。当然、狭い分野における専門知識はとてつもなく深いものとなり、少
なくともその分野においては、他の誰にも引けを取らない……と自信をもてるほどに
なるとどうなるか。
そう、裏を返せば他の分野のコトなどいっさいわからなくなってしまう。
大学で研究に没頭する科学者はたいがいこのタイプが多く、自分の専門分野にはオ
ニのように詳しいが、それ以外は興味すら持たない石頭の頑固者ばかりで、学生にま
で「専門馬鹿」とか陰口を叩かれてしまったりする。
もっとも、一般的な人間の脳味噌には認識限界というべきものがあり、聖徳太子で
もないかぎり一遍に複数の話をきくことはできないし、レオナルド・ダ・ヴィンチで
もなければ理数・文芸・運動能力のすべてに渡る知識を深く納めることは不可能であ
る。
であるからして専門分野を努力で踏破したそこいらへんの大学教授くらいでは、せ
いぜいがひとつかふたつの分野しかこなしきれないのである。
ところが、三宅教授レベルの天才ともなると、少々事情が違ってくる。
世に広く浅く知識を持った「雑学知識の多彩な人」というのは結構多く存在するが、
三宅教授はこのタイプをさらに発展させ、広く深い知識を持つ「博学工学者」に昇華
している。雑学知識の多彩な人は、複数の知識を持ち合わせてはいても、それぞれを
同時に関連させて発想を起こすことはできない。だが、三宅教授の場合、不特定多数
に渡る知識と凶悪の域に達しつつある強大な好奇心によって得た新たな知識をたちど
ころに合致させ、新たな理論や発想を捻り出すことができる。
天才のみになし得るカンのよさ、呑込みの早さと理解力を備え、本来交錯するはず
のない分野……例えば量子物理学と俳句、磁性体工学と内分視鏡学などなどをひらめ
きによって結びつけ、応用してしまうのである。
一般人をシングルタスクOSとするなら、三宅教授はマルチタスクOSな人である
わけだ。
もちろん、これだけのことをやってのけるのは人間業ではない。だから三宅教授は
実は人間ではない……という定義もあるくらいだが、実際、三宅教授の動向・挙動・
言動はやや分裂気味で一般人離れしていることは否定しえない。もちろん、それで煮
え湯を飲まされているのは主に木島であるが(^^;)
「この前の……ええと、猫の首輪に集音マイクと発信機と重低音サラウンドスピーカ
ー内蔵通信機、それに今回納入させていただく超々微細CCDカメラを仕込んだ……
群島野良猫探偵団でしたっけ? またあのときみたいな?」
「いや、マルイシ電気さんだけじゃなく、量産の話がやっと軌道に乗りましてね。そ
っちはもういいんです。いいんですが……今度はHVだなんて……(;_;)」
「HV……水素自動車ですか?」
「まったく、すぐに趣味に走るんだから……」
「へぇ、三宅総研じゃ水素自動車なんかもやっているんですか。僕はてっきり電気自
動車オンリーかと思ってましたよ」
「まぁ、ね。私もね、言ったんですよ。いま市場に出回ってる無公害車のほとんどは
EVです。おかげでMEVも数多く使っていただいてます。三宅総研にとってMEV
は、けっこう大きな収入源のひとつだったんですよ。
それを……もうEVは古い、時代はHVだー……の一言でEVから撤退して、まだ
海のモノとも山のモノともわからないHV一本に絞る……だなんて……(;_;)」
「……へ……ぇ。たいへんですねぇ」
「三宅教授は来年機種転換される都バスを、EVバスじゃなくHVバスにするつもり
なんです。でも、HVはまだコストが高すぎて。それに致命的な欠点は未解決のまま
だし……そんな危ないモノを市場に送り出すなんて自殺行為もいいトコですよ(;_;)
最近はEVを作ってるメーカーも増えてきたし、このままじゃ三宅総研の屋台骨が
ガラガラと崩れて行ってしまうんですぅぅぅ、ああああああああああ……(T_T)」
木島は、ヨヨと泣き崩れた。
そして、晴海谷は困惑しきった表情の裏に、木島への同情とは別のものをしまいこ
んだ。
act.P-5;基礎知識2
EV……電気自動車の開発の歴史は、昭和四十年代に遡る。
ニクソン大統領のエネルギー教書の発表とそれに続く第一石油ショックの時代に、
EVの実質的な開発が始められたといっても過言ではない。「石油が枯渇する!?」
という危機感と政府の要請もあって、日本国内の各メーカーがEVの開発を始めた。
ところが、石油ショックが過ぎ去ると、コストばかりかかって効率がよくないとさ
れるEV自動車の開発熱は冷めてしまった。
HV(水素自動車)が、燃料をガソリンから水素に置き換えた内燃機関であるのに
対して、EVはエンジンをモーターに置き換えた自動車であると言える。実際、初期
の各メーカーのEVは、普通の自動車のエンジンをそっくりモーターに替え、電池を
積んだだけのものから始まった。
ところが、これだとエネルギー・ロスが多く、電池とモーターの特性がなかなか生
きてこない。本来、自動車のギアやトランスミッションは、高回転で回り続けるエン
ジンの回転数を下げるための機器であり、電池をムダ使いしてまで高回転を保ち続け
ることに意味を持たないEVにはあまり必要のない部品なのである。
環境問題がクローズアップされてきた一九八〇年代末から一九九〇年代になって、
新日鐵からNAVが、東京電力からIZAが発表された。これらのEVは、軸を固定
しておいてモーターの外側を回すアウター・モーター方式を取り入れた。タイヤに直
接DCブラシレス・モーターをいれ、車軸を固定しておいてタイヤを直接回すという、
この大胆な発想はホイール・イン・モーター(もしくはホーイル・モーター)と呼ば
れる。
ホイール・モーターを採用したことによって、ピストンの上下運動から回転運動を
取り出すカム・クランク、回転数を替えトルクを生み出すためのギア・トランスミッ
ションが消えた。車種によっては、エンジンを冷やすためのラジエーターグリルも省
略された。
次に待ちかまえていたのはガソリン自動車における燃料にあたる……電池の問題で
ある。
この頃には、先のカリフォルニア州法に対応すべく、低公害車の開発も活発に行な
われていたため、各種のハイブリッド車や、メタノール車、LPG(液化天然ガス)
車などのプロトタイプや実売車種が発表されはじめていた。
その一方で、EVの開発は既存の自動車メーカーばかりでなく、新たに参入した別
産業の新メーカーによって活気づきはじめていた。
自動車はエンジンに様々な工業技術を投入して作りだした、工業技術の集大成とも
言える工業製品である。核となっているエンジンは、ワットの蒸気機関以来の内燃機
関の改良型だし、車をとりまく外板は大型プレス機による打ち抜きによって作られて
いる。搭載されるエアコンやカー・オーディオなど、走るための機能とは異なる部品
も数多い。
トヨタ、ニッサン、ホンダなどの大手メーカーがすべて一手に引き受けてひとつの
工場で生産しているような印象が強いが、実際にはこれらの細かい部品や装置を作っ
ている、大小様々の下請け企業の作った部品を納入して組み立てるのが大手メーカー
の工場の仕事であり、実際に細々した部品のほとんどは下請け企業の工場の人々の手
によって作られている。
この大きなピラミッド構造が、多くの人々を自動車生産に関わらせ、多くの儲けを
生み出しているのである。また、この複雑で巨大な構造のために、後進のメーカーが
巨大な自動車メーカーに成長することは不可能に近かった。一九九〇年代当時の日本
の対外輸出黒字の四十%近くにあたる巨大産業である自動車産業に、他業種産業の入
り込む余地は、ありえなかったのである。
ところがEV実用化の兆しは、この産業構造を根本から変えてしまい兼ねない重大
な意味を持っていた。
ホイール・モーターを使用したEVは、カム・シャフト・トランスミッション・ギ
アなどといった部品を省略することができる。つまり、既存の自動車メーカーがEV
に力を入れていけばいくほど、弱小下請け企業が切られる可能性が高まるのである。
自動車そのものが技術の集合体であるように、自動車メーカーもまた企業の集合体
である。これがGMのようなアメリカの企業ならば、迷わず不要人員や下請け企業を
レイ・オフ(一時解雇)し、余った工場を閉鎖することを抵抗なく断行できるだろう。
しかし、日本のメーカーの体質として、なかなか下請けを断ち切れない部分があるの
は否めない。
そこで、既存の自動車メーカーはできるならば……とEVではなくメタノールや水
素で走る内燃機関自動車の開発に力を入れてきた。メタノールや水素を燃やして走る
内燃機関は、原理・構造的には従来のガソリン・軽油駆動のエンジン車とあまり変わ
らないため、これまでの生産体制や下請け構造が流用できるためである。
この動きでメタノール車生産に力を入れた各メーカーだが、時代の流れとともに低
公害車ばかりなく、無公害車を作らざるを得ない状況が忍び寄りつつあった。
二〇〇二年頃までに、HVを実用化にこぎ着けたのは、水素ロータリー・エンジン
搭載のマツダHR−Xのみだった。
HV(水素自動車)の単純構造は確かに既存の内燃機関と大きくは変わらなかった
が、水素の安定供給、燃焼室内での燃焼(爆発)の制御が難しく自動車燃料としては
不安定な水素を、貯蔵するための水素吸蔵合金タンクの改良など、未解決の問題が多
かった。
こうした自動車業界のジレンマをよそに、二〇〇〇年代初頭の太陽電池の材料改善
による低コスト高発電化と、燃料電池を含む各種電池の改良・高性能化を受けて、E
Vは次世代無公害車として我が世の春を謳歌していた。
EVの波は、日本だけでなくアメリカをも襲っていた。権威の巻き返しを狙ってI
MPACTというEVを出したGMだが、コストの高さ故、商品としてヒットするこ
とはなかった。むしろ、アメリカにおけるEV生産は中小規模のベンチャー企業によ
って行なわれた。また、自動車産業以外の業種の企業がベンチャー企業に資本投下し、
EVによって自動車産業の勢力図を塗りかえようとさえしていたのである。
昨今では、ビッグ3は自らの権威を守るため、EV生産を行なうベンチャー企業を
逆に買収して部門に傘下の加えるなどして対応している。
EVは、二〇〇〇年を越えるこの時代になって、従来の自動車業界に風穴をあける
ダーク・ホースとなった。
実際、日本においても活発にEV化を推し進めているのは、自動車産業よりは、電
力・電気、素材関係のメーカーによる新進企業や、海外から資本参入している企業で
ある場合が多い。これらの後発企業は、HVの開発が遅れているのをいいことに、E
Vの利点を最大限に掲げてシェアの独占を狙っている。
本来、無公害車への流れは石油燃料の削減を意味する。これによって打撃を受ける
のは石油会社に他ならない。一九九〇年頃の石油輸入量の約半数は自動車の走行のた
めに消費されてきたというから、自動車の多くがEVやHVのような非石油駆動車に
変わることは、石油会社にとって大きな損害となったのである。
ところが、二〇一九年に発表された石油燃料電池の存在が状況を大きく変えた。
従来のガソリン駆動車は、エンジンの燃焼室内でガソリンや軽油などの燃料を燃や
す(爆発させる)ことによってピストンを上下させ、回転運動を得てきた。これに対
して、EVは電池からモーターに電流を流すことによってモーターを回転させてタイ
ヤを回す。
鍵は電池にある。
電池は電解質(イオン導電体)、陽極(+)、陰極(−)の三要素からなっており、
陽極から陰極へのイオンの移動によって電気を発するように作られたシステムである。
電池の陽極の活物質として酸化剤が、陰極の活物質としては還元剤が用いられる。普
通の電池は、電池内に蓄えられた活物質を使いきるところまでしか機能しない。とこ
ろが、燃料電池は陽極の活物質として酸素を、陰極の活物質として燃料を供給し続け
てやれば、いつまでも発電し続けるのである。
燃料電池はアポロ計画やジェミニ計画などの宇宙開発で宇宙船の電源として注目さ
れ、これまでに商用としてリン酸型燃料電池などが開発、使用されてきた。しかし、
数百度の高温で運用しなければならないこと、小型化が難しいことなどから、EVの
電源としてはあまり注目されなかった。
新開発の石油燃料電池搭載EVは、EV内の燃料電池に補給するための燃料の供給
が従来のガソリンスタンドでそのまま受けられ、通常の充電池のように充電の手間が
いらない。
これに目を付けたECのある総合商社の極東支部が、ベンチャー企業に依存する日
本国内でのEVのシェアを一気に奪取するため、中東系石油会社と結託して新会社を
創業した。
この新会社は既存の自動車メーカーに対抗するため、EVを製造する中小のベンチ
ャー企業を束ね、石油会社の支援を受けて企業合同体の主幹についた。
彼らEV推進派は、自動車メーカーへの対抗策・第一歩として、都バスの機種選定
ではいかなる手段を使ってでもHV派を打倒し、EV導入を迫ることを決意した。
目的は言わずもがな。EV市場への進出を足がかりに、群島経済を掌握……ひいて
は日本産業界の制覇へと駒を進めるためである。
ここに、またひとつ野望の種が芽吹こうとしていた。
act.P-6;Industrial Spy
紫沢俊は、手持ち無沙汰だった。
根戸宏が取材の名目でイギリスに渡り、先週から二週間の予定で根戸安香も取材(と
言うのは本当に名目で、実はバカンスである(^^;))のため小笠原・父島に雲隠れし
ている。そこで、安香が帰ってくるまでの間、このDGS(デァ・グルッペ・シュペ
ーア)極東支部マネージャーの椎摩渚嬢にスカウトされ、DGSでアルバイトをする
ことになったのだが、何をどうすればいいのかさえさっぱりわからない。
受付で渡されたネームプレートをぷらぷらさせながら社屋をうろついていた所、諏
訪操に捕まって企画調整局の電話番を申しつけられたのである。
「だぁいじょうぶ。緊急の用事はそれぞれの部署あてのホットラインに入ってくるか
ら、極秘情報みたいな大事な話がここにかかってくることはないわ」
操はそう言って企画調整局を出ていった。
後に残された俊は、ヴィジホンの前のデスクに座ってほけら〜としていた。
「暇だ。これじゃ局にいて田無さんの企画を手伝ってた方がまだましだったかもしれ
ないなぁ……ま、これでバイト代もらえるんだったらラクでいいや(^^)」
改めて周囲を見回してみる。企画調整局……と銘打たれたさほど広くもない一室に
は、俊以外に誰もいなかった。
「それにしても、社内に部外者を残していくなんて……DGSもけっこう不用心な会
社だな。……もし僕が産業スパイだったら、今の内にこっそり企業秘密を盗みだした
りなんかして……」
俊は、いかにもTV屋らしい夢溢れる空想にふけっていた。
しかし、彼が幸いであったのは、その思い付きを空想にとどめておいたことにある。
もし俊が思い付きでDGSの企業秘密らしきものに手を出したりしていたら、きっと
タチヤーナ・ロマノワの研究室から一生出してもらえず、なんだかワケのわからない
実験のモルモットにされていたかもしれない。
☆
ヴィジホンのモニタには、DGSの社名ロゴとアイキャッチのデモ画面が流れ続け
ている。かれこれ2時間もの間、電話は一本もかかってこない。
俊は再び失礼な言葉を口にした。
「この会社、実は儲ってないんじゃないか?(・_・;)」
これまた椎摩渚あたりに聞かれていなくて幸いであった。
もっとも営業部ならいざしらず、俊がはりついているヴィジホンは企業内部の部局
の電話であるからして、滅多なことでは連絡など入らない。
いい加減、飽き始めてきたところに、その電話はかかってきた。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…………
「おっと、はいはいはい……、はい。こちらデァ・グルッペ・シュペーア企画調整局
です! ……ってアレ?」
どうやら、相手はヴィジホンのカメラのスイッチを切っているらしく、モニタに相
手の映像が映らない。
『もしもし……そちらDGS……?』
「はぁ、そうですけど……」
『企画調整局の局長もしくは、DGS電工の担当者は?』
DGS電工。それはDGS傘下でEVを作っている会社のことである。が、俊がそ
れを知るはずもない。
「はぁ、今、担当の者は外出しております。こちらからかけさせますので、お名前と
連絡先をお伺いできますか?」
相手は一瞬躊躇して、そして続けた。
『いや……それじゃまたこちらからかけなおします。担当者には……そうだな、都バ
スの機種選定について、有利な情報を提供する……そう伝えてほしい』
「え? ちょっと、あのお名前は……もしもし? もしもし!?」
電話は切れていた。
あまりに短く、一方的なやりとりであった。
「……これっていうのは……もしかして、もしかすると……産業スパイの売り込みっ
てヤツなのでは!?(・_・;)」
ご明答。やっぱり、もしかして、もしかする。
☆
晴海谷正は、公衆ヴィジホンBOXから出て襟を正した。
「三宅総研のお家の事情……高く売れると思ったんだけどな……。ま、いいか。もう
少し三宅総研の情報を集めて、改めてEV派に連絡をとることにしよう……」
act.P-7;電話
AS(アーキペラゴ・ステーション)報道部は戦場のように忙しい。
デスクの怒号、外信から入ってくる最新ニュースのFAX、原稿の受取人を探すバ
イク便屋の青年の力ない叫びと、死ぬほど忙しいはずなのに優雅に談笑するディレク
ターの笑い声、誰も取らない電話……。
ふらりと報道部に現われた田無論は、企画書の束を抱えたまま先刻から鳴りっぱな
しになっているヴィジホンの通話ボタンに手を伸ばした。
「もしもし! こちら、報道部っ!!」
報道部の人間は皆、超忙しい。そのおかげで映像も送れる便利なヴィジホン(映話
機)という電話がありながら、相手の顔などいちいち見ない。そのうえ、密告電話の
ような情報提供も多いため、あえてモニタのスイッチを切って音声通話だけをするの
が通例になっている。
『あ、あのっ……大事な話なんですが……』
ヴィジホンの向こうから、少しうわずった声が聞こえてきた。どうやら二十歳前後
の若者のようだ。
「大事な話? 誰につなげばいいの?」
『安香先輩は留守だし……その、根戸宏先輩はいらっしゃいますか?』
「根戸は先月からイギリスだよ」
『えええ? それじゃ誰に伝えればいいんでしょう……』
「根戸の関係者か? そんなら……ちょっと待って。おーい、飛鳥!」
田無はちょうど外回りから帰ってきた飛鳥龍児を呼び止めると、ヴィジホンの対応
を押しつけた。
「電話だよ、電話」
「俺に?」
「根戸宛だそうだ。関係者だろ? おまえ」
「……まぁ、そりゃ知らない仲じゃありませんけどね」
根戸兄妹の不在中、根戸宛の連絡・電話は片っ端から飛鳥龍児に押しつけられてい
た。だいたいが根戸宏宛にかかってくる電話には、ロクなものがない。
連日回されてくる正体不明の情報屋の情報と、受けた途端に黙り込む無言電話と脅
迫電話に流石に辟易していた飛鳥は、例によってモニタのスイッチを切ったままのヴ
ィジホンに向かってぞんざいに応えた。
「はーい、根戸兄妹苦情受付係の飛鳥ですが……」
『飛鳥……飛鳥龍児先輩ですか? 根戸宏探検隊の!?』
「そうだけど……キミは?」
『根戸安香先輩の下でAD(見習い)をやってるマスコミ学科の一年の紫沢といいま
す』
「根戸さんならイギリスだし、安香さんなら小笠原だよ」
『知ってます。そっちの話じゃなく……飛鳥先輩、僕……すごいネタを聞いちゃった
んですよ!』
紫沢の興奮気味の声は、何かをすごいニュースを伝えようとしているようだ。
太古の昔から、電話は事件記者に宝の在処をささやいてくれる。ジャーナリストの
勘で事件の匂いに気付いた飛鳥は、ヴィジホンの向こうの紫沢にカマをかけてみた。
「ほう……もしかして、タレコミかい?」
『えっ……ええ、そうです。あの……産業スパイらしい人がいて……いや、詳しい話
は直接……』
「おもしろそうだね。俺はどこに行けばいいのかな?」
『え、ええと……待ち合わせ場所は……縁島の〈うぃんずている〉って茶店で……』
「わかった。じゃ、今すぐ出るから。ええと……三十分後に〈うぃんずている〉で!」
飛鳥はヴィジホンを切ると、麻の上着を持って立ち上がった。
「何処いく。この後、アーキペラゴ・ステーション杯争奪ラリーの企画会議が……」
「ちょっと急用ができましてね。ラリー……でしたっけ? そっちは手伝えなくなり
ました。あ、それから根戸さん宛の電話があったら俺の代わりに受けといてください。
それじゃ!」
飛鳥はそう言うなり、田無の返答を聞かずに報道部を飛び出していった。
「おい! おいってば!! ……逃げやがったな、あの野郎」
と、そこへ再びヴィジホンのコール音。
「あーあー、うるせぇうるせぇ。人手を借りにきただけなのに、どうして俺が報道部
の電話番をしなくちゃならないんだ……」
だが、ヴィジホンは田無の愚痴など聞いてはくれなかった。
「はいはい、こちらAS報道部」
モニタのスイッチが切れたままのヴィジホンに飛び込んできたのは、やたら元気の
いい壮年の男性の声だった。
『根戸安香くんはいるかね?』
「どいつもこいつも根戸根戸って……いませんよ。根戸安香は小笠原です。戻りは来
週。兄貴の方はイギリスへ取材に行ってます」
『ふむぅ。そいつは困ったな』
「どなたです? 伝言なら伝えておきますよ」
『そーか? では、安香くんに「近いうちに群島内でキャノンボールをやろうと思っ
てるんだが、キミも一口乗らんか」と伝えてくれたまい。レースの放映権をくれてや
るから手伝って欲しい。テーマはな、EV対HV。電気自動車と水素自動車のどちら
が優れているかを証明する、意義ある……しかし非公式なレースになる。だが番組と
しては面白いだろ? 結果が放映されりゃ、どっちが優れているかが白日の下にさら
されるわけだし……』
電話の相手は田無の反応を聞くまでもなく一方的にまくしたてた。
「は……はぁ。おたくさんのお名前は?」
『がっはっはっはっはっはっはっは。三宅だと言えばわかる。ぢゃあなっ!』
そして、ヴィジホンは一方的に切れた。
太古の昔から、電話は事件記者に宝の在処をささやいてくれる。
田無論は、薄笑いを浮かべてつぶやいた。
「……ちゃぁんす!」
根戸安香が戻ってくる前にすべてのお膳立てを済ませ、一躍名を馳せてやる! そ
ーすりゃ、『レース・ディレクター』としての地位と称号は確実に俺のモノ! そい
でもって局内での発言力もあがって、根戸兄妹なんかに大きな顔でのさばらせておか
ずにすむ!! AS杯ラリーの前哨戦だ!
……他人の成功を目の当たりにしたディレクターの考えることは、どれもあまり変
わらないようである。
act.P-8;エントリー
木島正大番頭は、結局胃潰瘍のため緊急入院してしまった。
いればいたで愚痴るわ泣き言を言うわで、三宅教授にとってはうるさいだけの財布
の紐男だが、いなければいないで不便極まりない。
そこで木島のサポートをしている副番頭が呼びだされ、三宅教授監督の下、エント
リー・ルールの草稿が作られた。
「……と、これでよし。これならEVが勝とうがHVが勝とうが、その結果は衆人監
視にさらされる。勝った方の方式が都バスに採用されても、誰も不思議には思わない
だろうし、誰にも文句は言わせないってワケだな」
「なるほど。しかし三宅教授……ASは本当にのってきますかねぇ? ほとんどこれ、
公道レースでしょう。法規制ギリギリですよ?」
「大丈夫。向こうの担当は根戸安香……別名:ゲッペルス安香と言ってな。おもしろ
ければなんでもイイというTV屋の鏡のような娘なのだ。その辺は安心したまい」
「はぁ……で、エントリーとルールですけど……どうします? 」
「要は、EV・HVが、それぞれ相手より優っていることができればいいんだろ?
だから、レギュレーションとしては、だ」
三宅教授はホワイトボードに金釘流の文字をたたきつけるように書いた。
1.EVかHVであること
「まずは、これだな」
「二輪車はどうします? 電動バイクだってあるし……水素バイクを作ってるメーカ
ーもあるって噂も聞いてますが……」
「ガソリン車でなきゃ、なんだっていいんじゃねーか? まず、EVで参加するか、
HVで参加するかを決めさせよう。次は、これ」
2.排気量・モーター・電池の上限無制限
「……教授。これって、卑怯じゃありません?」
「そーか?」
「だって、HVが圧倒的に有利になっちゃうじゃないですか。HVは排気量あげれば
それだけ出力が得られるけど、EVはコイルの巻き数や電池の出力を上げたくらいじ
ゃそんなに変わらないし……」
「互いの最高のポテンシャルを引き出して比べるのが今回の目的だからな。バトルロ
イヤルってヤツか? それにおまい、最近のEVは最高速で二五〇キロ以上は軽く出
る奴もあるんだから、甘く見たらいかんぞ」
「はぁ……」
3.マシンの供給
「EVは……特に心配するコトないか。ノーマルのEVはいっぱい出回ってるし、E
Vメーカーも多いし……何よりDGS電工がライバルになるだろうな」
「……これっていちばん基本的なことだと思うんですが、ノーマルのEVでのエント
リーならともかく、HVを個人で持ってる人間なんかそうはいませんよ。その辺は木
島大番頭のおっしゃる通りだと思います。
そうなるとHVを出せるのはウチか大手メーカーくらい……ということになってし
まいます。ウチ以外の大手メーカーが、寅の子のHVを投入したワークスを参加させ
てきますかねぇ?」
「くるに決ってんだろ。これはまたとないHVをアピールする絶好の機会だからな。
モーターショーより迫力あるぞ。なんせ走るんだからな。実際に。
でな、参加者だけど……一般からな、HVに試乗してみたいってドライバー候補を
募集すればいーぢゃんか。希望者に希望の性能諸元を聞いて、それにあわせたマシン
を三宅総研がレース中のみ無償で貸し出す。メンテナンス一切もウチでやる。学生を
動員すりゃなんとかなるだろう。
どーせデータ集めなきゃならないし。テストドライバーを雇ったと思えば安いモン
よ。レース仕様のHVなんか、怖がって誰も乗らないもんな」
理由はひとつ。爆発して危ないからである。
4.レースの内容・ルート
「で、どこからどこまでを、どんなルールで走らせるんです?」
「考えてない」
「それじゃマシンが組めませんがな」
「コースが最初から分かってたら、みんなそれに併せて車を作ってくるだろうが!
如何なる状況にも対応できなければ、優秀なマシンとは言えん」
5.賞金
「シャンパン、レース・クイーンのキス、群島最速の称号と……。こんなもんだろ」
「……やっぱり、金が出ないと集まらないんじゃないですかね」
「走り屋ってのは、金より名誉とかプライドにこだわるヤツが多いからな。ま、それ
はそれとしても……何にも出ないってのは寂しいな。EV・HVの各メーカーの担当
者に連絡をとって経費から捻り出せと伝えろ。将来がかかってんだからケチケチする
なと言え」
☆
生き残るのはEVか? それともHVか?
より優秀なマシンの参加(エントリー)を待つ!
☆
その頃、根戸安香はまだ何も知らずに小笠原の海を楽しんでいたのであった。